2022.04.28
カテゴリー: Corona(コローナ) / Staccato(スタッカート) / スタッフ紹介
ツララのロッドには作り手のストーリーが大きく反映され、趣味趣向、生き方までロッド一本に注ぎこまれる。しかし、こういったブログやSNSで作り手本人にスポットが当たることは、今までとても少なかった。非常に個性的で、変わった考えや生き方をする人物も多く、紹介しないのは非常に勿体無い。そんなツララスタッフ達の紹介を、不定期だがシリーズとしてここから始めたいと思う。
2021年、秋。場所は関東某河川。ツララから撮影を依頼した、プロカメラマンの二神慎之介氏は、水辺で竿を振り続けるスタッフ工藤靖隆氏をカメラでとらえ続けていた。今回の目的は、2022年ツララカタログに使う写真の撮影。しかし、このように工藤氏や二神氏と会って話をする機会は非常に貴重で、なんせ眠らせるには勿体無い写真の数々が揃っている。これは、何もしない訳にはいかない。と、この企画に至ったのである。
第一回の主役は、ツララ黎明期からのフィールドスタッフであり、Harmonix【Staccatoシリーズ】の礎となった人物、工藤靖隆氏。最近では、同シリーズ「Staccato91MSS-HX」「Corona89MSC-HX」など、普段使いに旅の要素を盛り込んだ、ツララらしいシーバスロッドをリリースしている。関東エリアのシーバスフィッシングを基軸としつつ、東北や四国など遠征も多い。加えて、芦ノ湖のトラウトゲーム、北関東の渓流ゲームにも精通するマルチプロフェッショナルアングラーである。
そんな工藤氏も、30歳まではバイクレースが生活の大半を占めていた。当時は、表彰台の常連であった工藤氏。バイクファンであれば名前を知っている人も少なくない。
「好きな事はとことんやり切りたいよね」
工藤氏は当時をそんな簡潔な言葉で振り返るが、その日々の壮絶さは、手にした多くのトロフィーが証明している。
当時から釣りを楽しんではいたものの、プロレーサーとしてのプライドを持ち、釣りよりもバイクに熱意を注ぐ日々だった。その情熱は、並々ならぬものだったに違いない。
そして、バイクレースに節目を感じた時、工藤氏はその世界から身を引いた。
生活環境や心理の変化など、様々な理由があったにしろ、心から「やり切った」と感じられたことが、工藤氏のバイク人生にピリオドを打つ、最大の理由であったのかもしれない。その熱意が、今は「釣り」というジャンルに集中し、日々のモノ作りからフィールドワークまで、精力的に活動を続ける根源となっているのだろう。
撮影の出発前、工藤氏の自室をのぞかせてもらった。隅にあるルアー工房には、作製中のハンドメイドルアーが綺麗に並んでいる。順番待ちをするように、顔を窓に向けて並ぶ姿はなんとも愛らしい。これらのルアーは工藤氏がスイムテストしバランス調整、塗装し仕上げていく。
「散らかってるから、あんまりちゃんと撮らないでね」と工藤氏は言うが、きっと僕以外が見ても、好きなもので埋め尽くされた、ロマン溢れる遊びの部屋に見えるだろう。
「好き」や「趣向」をモノ作りに落とし込んでいくのは、作り手にとって必要な要素であり、工藤氏はそれを遊び心の中に持ち合わせているアングラーだ。
工藤氏とツララの付き合いは、もう10年以上にもなる。ツララが走り出して間もないころ、当時よりシーバス釣りで活躍していた工藤氏に「Baritono93」のプロトを試してもらったのが始まりだ。当時は高弾性全盛の時代、中弾性で重く鈍いツララブランクスには、やはり違和感を抱いたという。しかし、深い知識をバックボーンに持ちながら、「これも面白いね」と可能性を見出してくれる工藤氏の柔軟さは、新しいモノを作り出すために欠かせないマインドであり、これこそがまさにプロフェッショナルな姿勢だと言えるのではないだろうか。そこにツララも惚れ込んでいる。良いも悪いも正直に伝えてくれる工藤氏は、ツララにとって欠かせない存在なのである。
その後、ツララのフラッグシップ「Harmonixシリーズ」の立ち上げに携わってもらう事となる。その中で生まれたのは、工藤氏が手掛けた一本目、ウェーディングでの釣りを想定した「Staccato89MLSS-HX」。当時からすれば、極端にしなやかでバットまで思いっきり曲がる、正に異端の一本。しかし、ロッドを曲げて魚を止めるという本質を追求した一本であり、魚を釣り続けた経験が無ければ出来上がらないロッドでもある。オープンエリアの魚は、ロッドをしっかり曲げて楽にキャッチする。工藤氏の豊富な経験から出た一つの答えは、後にリリースされた「Staccato110MHSS-HX」「Corona89M-HX」「Staccato91MSS-HX」などにも、しっかりと反映されている 。
工藤氏とツララの付き合いは、今も変わらず、のらりくらり 。
しかし、互いの事をいつも真剣に考え、尊重しながら続く関係だ。ビジネスだけに焦点を当てるのではなく、お互いが心から楽しめるか、を何より大切に考えている。そんな気持ちを感じるからこそ、ツララも工藤氏と一緒に仕事を続けていきたいと心から思える。お互いの「こうしたい」は、混ざらないようで混ざり合う。その中で生まれた、楽しい事をモノ作りに昇華したいという気持ちが、両者を何より深く繋げているのだろう。
二神氏が撮影を終える頃には、すっかり夜の気配が降りてきていた。今日は一日、三人で色んな話をした。ここに書いた話も、書かない話も沢山。この辺で終わりにしましょう、二神氏の言葉を合図に、我々は帰路に着いた。
エピローグ的に。最後に入ったラーメン屋では、今日を振り返りつつ、次は何をしようかと目論む会合となった。春のトラウトが気になる工藤氏の中では、次の計画はおおむね決まっているようにも見えた。解禁に合わせたトラウト釣行も、工藤氏の年間計画のひとつだ。
季節が変われば釣りも変わる。それに合わせた旅も、また始まる。釣り人に落ち着く暇はない。お互いのやりたいことを話し合い、楽しい事を続けていくことが僕らにとって何より大切なことなのかもしれない。
写真:二神慎之介
文章:岡林 弘樹